技術でつながるプロジェクト2016
世界に誇る日本の「匠」より、 町工場へのメッセージ。

1つ1つ部品を手にとり見つめる日産GT-Rエンジンの「匠」黒澤工さん

今年4月に次期2017年モデルが先行披露されたばかりの、日産自動車のフラッグシップ商品「GT-R」。
そのエンジンを1台1台手組みするのが、世界でたった5人のみの、「匠」と呼ばれる技術者。
その匠のリーダー 黒澤 工(くろさわ たくみ)さんに横浜工場のエンジン組立ライン現場でお会いし、町工場の技術について思いのたけをお話しいただくことができました。
ご縁に恵まれての短い時間の出来事でしたが、なかなか聞くことのできない匠からの本音のメッセージとして、産業Naviでご紹介させていただきます。

『GT-Rのエンジンとトランスミッションは、F1と同じように、工場内にある塵や埃のない専用のクリーンルームで、一人の匠によって一基一基組み立てられる。』
『カムシャフトのカムとバルブヘッドとのクリアランスも、ひとつひとつ厚さ数ミクロンの板を手作業で挿入し、精密に測定する。』
(日産株式会社GT-R公式サイトより)
『匠は、研ぎ澄ませた感覚を頼りに、シックネスゲージを使って機械では計測不可能な10ミクロン刻みの隙間の違いを感じ取りながら、バルブクリアランスの調整作業を進めていく。』(工場内 匠体験コーナー”VR38バルブクリアランスチェック”説明文より)
NISSAN GT-R 2017年モデル先行披露(日産自動車株式会社ニュースリリース)
人の技、匠の技。Made in JapanのDNAをGT-Rに。(日産自動車株式会社GT-R公式サイト)

日本の町工場の技術、その素晴らしさ。

GT-Rエンジンに装着された黒澤さんのネームプレート『エンジンに装着されたネームプレートは、日産の職人達が匠の技を注いだ証であり、誇りでもある。』(日産株式会社GT-R公式サイトより)

”通常の3倍長持ちするメタル”の作り手こそ

”メタル”っていう、部品と部品の間に入れて、部品が擦り減らないようにするためのものがあります。
横浜市金沢区にある、「メタル屋」の町工場さん。
そこの社長さんと僕は古くからの知り合いですが、その人が作るメタルは、 全然擦り減らないんです。
他社の技術者が作ったメタルも、その社長さんが作ったメタルも、コンピュータ上の試験数値も寸法も、全く一緒。
なのに、その人の作ったメタルは、3倍長持ちする。
日産の技術者たちも、その町工場の社長さん自身も、なぜなのか理由はわからない。
社長曰く・・・
「部品の輝きが違う」。
他の大企業も、たくさんその町工場からメタルを仕入れています。
それだけものすごい技術なんです。
僕らの作る車は、 このエンジンも、車体も、全部が町工場さんの技術で支えられてできているんです。

世界から求められている日本の町工場の技術

でも、実はその町工場、後継者がいない。
社長さんも、「もう年だから・・」と新たな注文を断ってしまっているそう。
素晴らしい技術があるのに、後継者がいない、広めてくれる人がいない。
僕は、それは本当にもったいないと思っています。
日本の町工場の技術、世界がそれを知ったら、もっともっとチャンスが広がる。
僕らのところには、毎週のように海外から企業がやってきて、
「この部品と同じものがほしい」
「この技術はどこでどうやって実現できているのか」
「このピストンはどこで作っているのか」
と質問が飛ぶ。
僕らも質問されても、どこの町工場の技術なのか、までは答えられない。
その橋渡しがうまくできれば、日本の町工場はもっと活性化できるのではないかと思います。
先週もスウェーデンのとあるディーゼルエンジン企業の担当者がやってきて、日本製の部品がほしい、と言う。
でもどこに聞いたらよいのかわからない、と。
彼らには、直接日本の町工場にたどりつく術がないのです。

それだけの技術を、2016年の現在でも日本国内でしか知られていない町工場が多い。
日本人の器用さと一生懸命さは、海外ではそう簡単にまねできるものではないです。
(技術流出や言語などの)障壁を恐れず、どんどん海外に向けてその技術を、存在を、発信してほしい。
たとえば、毎週のように日産にやって来る海外の企業の担当者。
その人たちに、町工場の工場見学に連れていって、 実際に現場で技術を見せることができたら。
1番早いのではないかな、なにかが変わってくるのではないかな、と、僕自身は思っています。

多数の精密な部品群により組み上げられたGT-Rエンジン

ピストンを手にとる黒澤さん

日産エンジンミュージアム

日産エンジンミュージアム 歴代エンジン

日産エンジンミュージアム 歴代エンジン

日産横浜工場内にある日産エンジンミュージアム(日産自動車株式会社横浜第一号館)には、歴代の日産車エンジンが並んでいる。
日産横浜工場 見学についてのお問い合わせはこちら

日産エンジンミュージアム 加工したままのシャフト
組み上げる前、加工したままのシャフトなど、多数のエンジン部品も展示されている。

ミュージアム内展示黒澤さん作のGT-Rエンジン
ミュージアム内にも黒澤さん作のGT-Rエンジンが。
町工場の作る多数の複雑な形状の精巧な部品群と、それを組み上げる日産の技術力、圧巻。

黒澤さんとの出会い・この記事ページ公開のきっかけをつくり、
日産車の歴史、エンジン組み上げ技術、さらには、日産に働く「ひと」の素晴らしさを教えてくださった
同社横浜工場工務部生産課の杉山さん・福山さんに、心より感謝いたします。

2016/7/7公開 TVCM 「GT-R×矢沢」篇 ― ”匠”登場 ―

Movie 2017 Nissan GT-R: Precision craftmanship 匠

Access Map