優秀賞 販売部門 三富染物店

代表: 三冨 實仁
所在地: 〒238-0243 三浦市三崎1-10-9
設立: 1833年1月 従業員: 2名
資本金: -
TEL: 046-881-2791 / FAX: 046-882-2319
産業Naviページ:-
公式ページ: https://www.m-some.com/

観光客を対象とした伝統技術体験と観光土産品販売事業

大漁旗は漁業者以外からの認知度は低く、その影響で祝旗の受注は伸び悩んでいる。
当店が立地する三浦市は、観光客が500万人以上来遊し、滞在時間は2時間程度である。当市の観光客向けの土産品は、鮪をはじめとした冷凍品であり、購買層も限られている。
本事業は、大漁旗製造体験事業の実施と大漁旗をモチーフにした「手ぬぐい」を販売することで、観光客の土産品需要のキャッチアップと体験事業を通じ、大漁旗の認知度向上を目指すものである。
ミニ大漁旗の染付体験
 

なにより丁寧な手仕事を知ってほしい

創業は江戸の昔

 
姓は三冨だが、屋号が三富なのは、「画数の関係なのかもしれません。つまり“冨”よりも一画多いほうが吉数なので“富”にしたらしいと」今回産業Navi大賞に応募した三冨由貴氏がそう説明する。
設立は1833年。もともとは幕府の御用職人だった。戦の幟を納める紺屋で、免税事業者のはずが、税の取り立てがあった。これはどうしたことか? という浦賀奉行所への質問状が横須賀の図書館に保存されており、その日付が天保4年1月だったところから、この年には間違いなく存在していたと設立年月にしている。あまりに古くから続く店なので、今となっては不明なところもあり、「らしい」と推察するしかないのである。
当主は代々實右衛門を名乗る。由貴氏の父である6代目当主の實仁氏は、作業場で仕事中だ。
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隆盛を誇ったマグロ漁と大漁旗

 
染物業は機織りよりも古典技術である。戦旗を納めていたところが、時代とともに大漁旗を扱うようになった。三崎漁港が近いため、それは必然の流れであろう。
かつての漁船はつくりがよくなかった。なにより大漁旗は、帰港を待つ家族に、遠くからいち早く無事を知らせる合図だったのだ。大漁旗を見ることで、陸の人々は水揚げの準備に入れる。
近代になり漁船が大きくなるにつれ、大漁旗は新造船の祝いに贈られるのが習わしになった。マグロの遠洋漁業に出かけていくための準備をする廻船問屋や燃料屋など、関係業者から贈られるのだ。マグロ船1隻に100本の大漁旗が飾られることもあった。大漁旗には大きく船の名前と、贈り主の名前が入る。
遠洋マグロ漁の基地として隆盛を極めた三崎港は、経済の国際化の進展による日本漁船の減船、冷凍技術の進歩による流通構造の変化、公海における資源保護による漁業規制などから水揚げ量が激減。地域経済に深刻な影響を与えていたが、それは大漁旗を扱う三富染物店にも変わりなかった。
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店に入ってもらい知ってもらう

 
同店の大漁旗は「かながわの名産100選」に認定される、県内唯一の大漁旗製造事業者である。この技術を活かして、結婚、子どもの誕生や節句、還暦、古希、開店などさまざまな祝い事にオーダーメードで受け付ける飾り旗(祝旗)の製作を行っていたが、今ひとつ認知度が低かった。元来、大漁旗は漁業者向けという考えが浸透し、一般消費者には縁遠い存在なのだ。
なんとか大漁旗の認知度を向上させる対策を立て、実行しなければならない。そこで、市内に来遊する観光客の土産需要をキャッチアップでき、かつ同店の大漁旗を想起できるものとして手拭いの販売を企画した。
三崎漁港を知る地元デザイナーに協力依頼した、大漁旗をベースにしたデザインの手拭い販売を開始。一方で、大漁旗製造業と捉えられていた観光客と一般消費者に向けて大漁旗製造小売業としてアピールできるように居住スペースを改装した。土間の小売りスペースを確保し、来店しやすい雰囲気をつくった。
「店にじかに入ってもらい、手拭いをお土産に買っていってもらって、うちのことを思い出してもらう。そうやって、飾り旗の受注に結び付けたいと考えたんです」
由貴氏は大学卒業後間もなく家業に就いた。しかし、「なにしろ仕事を始めてからいい年がありませんでした。端午の節句の飾り旗も、一過性で終わってしまいます。なんとかしたいのだけれど、きっかけがつかめなかった」
それが、東日本大震災後、東北の漁港の復興の大漁旗をつくるのを手伝うことで、逆に勇気をもらえた。
「負けていられない、こちらも頑張らないと、と思えたんです」
東北の漁港からは、今も大漁旗の注文があるそうだ。
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土産品としての手拭いが好結果

 
手拭いの商品開発においては、あくまで大漁旗の認知向上を目指すものであった。それゆえ大漁旗のモチーフにした。そこを維持しつつ、若年層を含めた観光客に認知性のあるデザインを設定したことが評価されて、三浦ブランド商品として認定されるに至った。
三浦市には、年間500万人以上が来遊する。その滞在時間は2時間程度である。観光土産はマグロをはじめとする冷凍食品であり、購買層も限られている。また、交通手段の関係や、鎌倉市、横浜市とセットで来遊する観光客も多いことから、保存方法の観点で冷凍品を購入するのを敬遠する可能性もある。
同店の手拭いは、持ち歩きに支障はないし、直近の販売実績が当初開始実績の20倍に伸長していることからも今後の成長が見込まれる。同市にある魚釣りや地引網などの観光体験と連なり、体験後のお土産として持ち帰りが可能であることも好評を得ている。
京浜急行電鉄とも連携し、みさきまぐろ切符のお土産交換対象商品ともなっている。
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染め付け体験事業も開始

 
消費者がモノ(購入)からコト(体験)へ興味が変化していく中、同店では大漁旗染付体験事業を開始した。観光客をはじめとした一般消費者に伝統技法に触れてもらう機会を提供することで、ここでも結果として大漁旗の認知度向上につながればよいと考えている。
「父ともよく話し合っているのですが、長く続けているものに、新しいものを加えたことが評価され、今度の産業Navi大賞優秀賞の受賞を得られたことはなにより嬉しいです。職人の父は、子どもさん相手の体験事業のあとは、気を使ってぐったりしていますが、充実しているようです」
同店の工房を見学させていただいた。
6代目實右衛門の實仁氏がのり付け作業を行っていた。もち米とぬかを混ぜて煮たのりを、布の袋の口から絞り出して、旗の図案の輪郭を描いていく。もっとも難しい作業工程で、のりが塗られた部分だけは、絵の具で染め付けたあとに洗い流すと、木綿の白が残る。
下絵を描くのは母、アサ子氏の担当。端午の節句の飾り旗は、依頼主の子どもの干支によって、金太郎がまたがっているクマをイノシシやトラに変えてほしいといった依頼もある。アサ子氏は、そんなリクエストにも難なく応えてしまう。由貴氏は染め付けが担当だ。
セミの声が降りしきる中、染め付けられたばかりの大漁旗が広げて干されていた。大漁旗は、遠目が効く原色が用いられている。真夏の太陽を受けて、いっそう鮮やかだ。それを見上げつつ、由貴氏が、「なによりひと品ひと品、手仕事で丁寧につくられているのだということを知って欲しいんです」つぶやくように言葉をもらした。
染め付けたあとで、旗を洗い流すのは庭の井戸から湧き出る地下水を使う。代々が使ってきた井戸で、水に潮が混じることはない。井戸神に1杯の水をささげるのが毎朝の日課だ。
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